ヤンソンスと柔道家

 大阪のフェスティバルホールヤンソンスの指揮するバイエルン放送交響楽団ブラームスの1番を聴く。2日前に急に東京への出張が入ってしまい行くのをあきらめかけたのだが、新幹線の自由席でかけつけ何とか後半だけ聞くことができた。そして堪能。満員立ちっぱなしの新幹線の疲れも吹き飛ぶ演奏で、元気でました。
別にヤンソンスの顔が往年の柔道家を思わせるからではないのですが、私はいい指揮者といい柔道家(格闘家でも可)には共通点があると思います。柔道的にいうと、自分の得意な組み手があり、強靭な足腰を持ちながらも俊敏で、かつ、ここぞというところでの決め手がある、のがいい柔道家ということになります。指揮者的にいうと、自分の得意な曲がきちんとあり、テンポとリズムに緩みがなく曲を前進させる能力にすぐれており、ラストが盛り上がる、というのがいい指揮者です。

 ただし、柔道家と指揮者の違いも勿論ありまして、一番の違いはユーモアだと思います。個人競技である柔道にとって、試合に臨む際のユーモアは特段必要なものではありませんが(プロの格闘家だと話は違ってきますが)、集団としてのオーケストラを率いるためには人間としての愛嬌は必要不可欠と思います。勿論、圧倒的な才能でユーモアの有無に関係なく統率するというのも可能ですし、実際にそういう例もあるのでしょうが(カラヤンとか)、やはり100人規模の人間を動かすのですから、普通に考えれば、音楽的才能プラス人間的魅力の総合点での勝負でしょう。

 昨日のブラームスの1番の最終楽章フィナーレから、アンコールのハンガリー舞曲、ばらの騎士の中のワルツ、と振っているヤンソンスも、演奏しているバイエルン放送交響楽団も、それは楽しそうでした。ヤンソンスの作り出す音楽には、まじめさと遊び心のバランスが絶妙です。以前カーネギーホールで聞いたときには、振ったのがウィーンフィルということもあってか、ややまじめの方向に寄りすぎていたように感じましたが、今日くらいの感じで振ってもらったほうが見るほうとしてもむしろリラックスできていいように思います。でも、同じ1番なら、マーラーの1番が聞きたかったな〜、というのもあるのですが、まぁ、それは今後のお楽しみということで、結論としては、本物はいつどこで聞いてもよい、というある意味しごく当たり前のことを改めて再認識させられた一夜でした。

 因みに、全くの余談ですが、柳沢健『1976年のアントニオ猪木』は、アントニオ猪木の評伝としてもとてもよく書かれている本ですが、その中で言及されている60年代、70年代のヘーシンク、ルスカ時代のオランダ柔道事情は大変興味深いものですので、その方面に興味がある人にとっては必読です。